『立正安国論』

【成立の背景】

正嘉(しょうか)元年(1257)鎌倉を中心に大地震が起こり、飢餓・疫病等で餓死する人々が続出した。
鎌倉松葉ヶ谷でこの惨状を眼前にした聖人は、これらの天変地異が起こった原因の究明と対処の方法を仏典に求めた。
一切経研究をもとに草案を述作した聖人は39歳の時、文応(ぶんのう)元年(1260)七月十六日、鎌倉幕府の姿勢を改めさせるため本書を書きあげ、宿屋光則(やどやみつのり)に託して北条時頼(ほうじょうときより)に提出した。

【題意】

「立正安国」とは、正しいことを立て国を安んずることである。聖人にとっての「立正安国」とは、法華経を信じ行うことである。

【内容】

旅の客が災難の由来を問い、主人が答えて対策を示すという問答の形式をとり、最後は客が帰依し邪法の退治を誓って締めくくっている。
この中で聖人は経文をもとに、打ち続く災いは邪法の興隆が原因であり、邪法を改めることで災いが防げることを証明した。その後さらに他国の侵略、反乱の続出を予言して法華経への帰依をすすめている。

【理解のポイント】

聖人は池上で亡くなられるまで、度々この書を弟子や信者に講義をしているが、この「立正安国」という言葉に、聖人の「法華経による理想の国土実現」の誓願が込められている。

【直筆】

千葉県中山法華経寺聖教殿にあり国宝。京都本圀寺には、のちに加筆した広本と呼ばれているものがある。


『立正安国論』   昭和定本日蓮聖人遺文

汝 早く信仰の寸心を改めて速やかに実乗の一善に帰せよ。然れば則ち三界は皆 仏国なり。仏国それ衰えんや。十方は悉く宝土なり。宝土 何ぞ壊れんや。国に衰微なく土に破壊なくんば、身はこれ安全にして、心はこれ禅定ならん。こと詞この言信ずべく崇むべし。
客の曰く 今生後生、誰か慎まざらん、誰か恐れざらん。この経文をひきて具に仏語を承るに、誹謗の科 至って重く、毀法の罪 誠に深し。我一仏を信じて諸仏を抛ち、三部経を仰ぎて諸経を閣きしは、これ私曲の思いに非ず、則ち先達の詞に随いしなり。十方の諸人も亦復是の如くなるべし。今世には性心を労し、来世には阿鼻に堕せんこと、文明らかに理 詳らかなり、疑うべからず。いよいよ貴公の慈誨を仰ぎ、ますます愚客の癡心を開き、速やかに対治を回らして、早く泰平を致し、まず生前を安んじ更に没後を扶けん。ただ我 信ずるのみにあらず。又他の誤りを誡めんのみ。


現代語訳
(主人が悦んで言うには・・・)
一刻も早く誤った信仰を改め、ただちに全ての人を成仏に導く真実の教えに帰依しなさい。そうすれば私たちが住むこの三界は皆、仏の国となる。仏の国は決して衰えることはない。十方の世界は、すべて浄土となる。浄土がどうして壊れることがあろうか。国が衰えず、壊れることがなければ、そこに住む私たちの身は安全であり、心はいつも安らかで平和である。
こう言っているこの言葉は、仏の真実である。しっかりと信じ崇めなければならない。
客が(ついに承服して)言う。
今生のこと後生のことについて、誰が恐れないものがいましょうか。いま多くの経文によって、懇切丁寧に仏の真実の言葉をお伺いしたところ、仏をそしり、経をないがしろにした罪科は大変重く、深いことがわかりました。
私が阿弥陀仏だけを信じ他の諸仏を捨て、『浄土三部経』を仰いで他の経を顧みないのは、自分の考えではなく、先師の教えに従ったからです。世間の人々も皆、私と同様でしょう。
結果、現世で心を迷わし、来世は阿鼻地獄に落ちることは、経文に説き示されているように、疑う余地がありません。
これからは、貴方の慈しみ深いご指導をお願いして、愚かな私の迷いを徹底的に晴らしたいと思います。
ただちに信仰を改め、鎌倉幕府の誤った方策を修正させ、一刻も早く平和な世の中にすることが、まず安らかな境地を得、さらに来世成仏のたすけとなるに違いありません。
ただ私一人だけがこのことを信じているというのではなく、必ず他の人たちの誤りを正すことを誓います。

【用語解説】

主・客・・・主は日蓮聖人、客は北条時頼を想定している。「安国論奥書」に「最明寺入道に奉る」とある。

実乗の一善・・・法華経のこと。「実乗」は仏の真実の教えの意味で実大乗教の略。教えを乗り物にたとえ、声聞乗・縁覚乗・菩薩乗の三乗に対して、唯一の仏乗で全ての人を救うことから「一善」という。

三界・・・欲望の世界である欲界、物質の世界である色界、それらを超越した精神世界である無色界の三つのこと。

仏国・宝土・・・悟りの世界や仏の世界。

今生・後生・・・今生は生きている世界、現世。後生は死後の世界、来世。

仏語・・・仏の言葉。経文。

誹謗・毀法・・・法をそしりやぶること。正法を誹謗・毀法することを「謗法」(ほうぼう)と云い、この罪が最も重い。

三部経・・・三部で一組となる経典で、ここでは『浄土三部経』のこと。『無量寿経』『観無量寿経』『阿弥陀経』を云う。

私曲の思い・・・自分勝手な思い込み。

性心を労し・・・心を迷わせ苦しむこと。

阿鼻に堕せん・・・阿鼻とは阿鼻地獄の略。無間地獄とも云い、間断なく大苦を受けるの意味。八大地獄の最下層にあって大きく、最も苦しい地獄。謗法罪のものはここに落ちる。

癡心・・・愚かでものの道理に暗いこと。

対治・・・智慧によって煩悩を滅することで、二つの意味がある。@相い対して治す。A害をあたえる者を打ち破る。

泰平をいたし・・・平和で安らかな世の中にすること。

葬儀・法事・供養のご相談にも乗ります。宗派は問いません。お布施やお供え物の事など、遠慮なくご質問ください。


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